真実を見失う「認知バイアス」とは?身近な情報との付き合い方
情報過多な時代、なぜ私たちは「信じたい」情報に惹かれるのか
インターネットやSNSの普及により、私たちはかつてないほど大量の情報に囲まれて生活しています。ニュース、個人の意見、広告、様々な情報が次々と目に飛び込んできます。その中で、「一体何を信じれば良いのだろう」「何が本当なのだろう」と迷いや不安を感じることは、決して珍しいことではありません。
特に、自分の感情を強く揺さぶる情報や、自分が普段から正しいと思っていること(信条や価値観)に合致する情報は、なぜか強く心に残り、信じやすいと感じた経験はないでしょうか。これは、情報そのものの客観的な真実性とは別に、私たちの心の働きが情報判断に影響を与えているサインかもしれません。
この心の働きの一つに、「認知バイアス」があります。これは、人間が無意識のうちに行ってしまう、情報の解釈や判断における「思考のクセ」のようなものです。ポスト真実の時代において、この認知バイアスが私たちの情報判断をどのように歪め、真実を見失わせる可能性があるのか、そして、その中でどのように情報と向き合えば良いのかを考えていきます。
「認知バイアス」とは、情報の受け取り方にある「思考のクセ」
認知バイアスとは、人が情報を処理し、判断を下す際に、論理的・客観的な基準から外れてしまう系統的な傾向のことです。脳が情報を効率的に処理するために働くショートカットのようなものですが、これが時には誤った判断や解釈に繋がります。
身近な例を挙げてみましょう。例えば、「確証バイアス」というものがあります。これは、自分の持っている仮説や信念を支持する情報ばかりを無意識に探し求め、逆にそれに反する情報を軽視したり無視したりする傾向です。
自分が「特定の健康法は効果がある」と信じていると、その効果を裏付ける情報や体験談にはすぐに飛びつきますが、効果がない、あるいは危険だという研究結果を見ても、「例外だろう」「自分には当てはまらない」と考えてしまいがちです。SNSで同じ意見を持つ人ばかりをフォローしていると、自分の考えが多数派であり、正しいとさらに強く確信してしまうこともあります。
また、「利用可能性ヒューリスティック」も関連性の高いバイアスです。これは、記憶に新しい情報や、強く印象に残っている情報に基づいて物事の頻度や可能性を判断してしまう傾向です。センセーショナルな事件の報道を頻繁に見聞きすると、実際よりもその種の事件が起こりやすいと感じてしまうなどがこれにあたります。
これらの認知バイアスは、私たちが意図的に情報を歪めようとしているわけではありません。私たちの脳が、限られた時間や情報の中で素早く判断を下すために、無意識的に働いている機能なのです。しかし、情報が多様化し、意図的に特定の情報が拡散される現代においては、この「思考のクセ」が真実を見極める上で大きな障壁となる可能性があります。
身近な情報との付き合い方:認知バイアスを意識する
では、この無意識の「思考のクセ」とどのように付き合えば良いのでしょうか。完全に認知バイアスをなくすことは難しいですが、その存在を意識し、影響を最小限に抑えるための実践的なヒントがあります。
- 自分の感情や直感を「一旦立ち止まって」考えてみる: ある情報に触れて、強い安心感や不快感、あるいは「やっぱりそうだ」という確信のような感情が湧き上がったとき、一度その情報を受け入れる前に立ち止まってみましょう。「なぜ自分はこんなに強く反応するのだろう?」と自問してみることで、感情に流されず、冷静に情報そのものを評価する余裕が生まれます。
- 「あえて」異なる視点の情報に触れてみる: 自分の意見や信念に合致する情報だけでなく、それに反する情報や、異なる角度からの分析にも意識的に目を向けてみましょう。最初は抵抗があるかもしれませんが、これにより、一方的な情報だけでは気づけなかった事実や背景が見えてくることがあります。検索する際にも、意図的に自分の立場とは逆のキーワードで調べてみるのも有効です。
- 情報の「なぜ」を問いかける習慣をつける: 見た情報に対して、「これは誰が、どのような目的で発信しているのだろう?」「その根拠は何だろう?」「他に考えられる可能性はないだろうか?」と問いかける習慣をつけましょう。情報を受け身で消費するのではなく、能動的に吟味する姿勢が、バイアスによる影響を減らす手助けとなります。
- 情報源の多様性を意識する: 普段利用するニュースサイトやSNSアカウントだけでなく、異なる視点を持つメディアや専門家の意見など、多様な情報源から情報を得るように努めましょう。一つの情報源に依存しないことが、偏った情報に触れるリスクを減らします。
認知バイアスを知ることが、真実への羅針盤となる
認知バイアスは、誰にでも存在する人間の自然な傾向です。そのため、自分の判断が常に正しいと過信せず、「自分にもバイアスがあるかもしれない」という謙虚な姿勢を持つことが、情報を見極める上で非常に重要になります。
情報過多な時代において、私たちは完璧な「真実」に常にたどり着けるとは限りません。しかし、自分の「思考のクセ」を知り、情報の受け取り方を意識的にコントロールしようと努めることはできます。
今回ご紹介したヒントは、情報とのより良い付き合い方を見つけるための一歩となるはずです。すぐに全てを実践するのは難しくても、まずは一つでも意識するところから始めてみてはいかがでしょうか。自分自身の「認知バイアス」を認識することこそが、ポスト真実時代を生き抜くための、あなた自身の羅針盤となることでしょう。