ポスト真実の羅針盤

「信じたい」情報に流されない ポスト真実時代に感情と情報と向き合うヒント

Tags: 情報判断, 感情, 心理, 認知バイアス, ポスト真実

はじめに

情報過多と言われる現代において、私たちは日々、様々な情報に触れています。SNSを開けば友人や著名人の発信、ニュースアプリを開けば国内外の出来事。その中には、思わず「そうそう、これ知りたかった」と思うような、あるいは「これは本当であってほしい」と願うような情報も少なくありません。

ポスト真実時代においては、単なる「事実」だけでなく、感情や個人的な信念に訴えかける情報が広く共有され、影響力を持つことがあります。特に私たちは、「信じたい」と心が動く情報に、無意識のうちに惹きつけられてしまう傾向があるようです。

しかし、その「信じたい」という気持ちが、情報の真偽を冷静に見極める妨げになることもあるのです。ここでは、なぜ私たちは特定の情報を「信じたくなる」のかという心理に触れ、その感情に流されずに情報と向き合うための具体的なヒントを探ります。

なぜ「信じたい」情報に惹かれるのか

特定の情報に「信じたい」と感じる背景には、いくつかの心理的な要因が考えられます。

一つは確証バイアスです。これは、自分の既存の信念や価値観を裏付ける情報を無意識のうちに探し求め、それを信じやすい傾向を指します。「自分が正しい」と感じたい、あるいは「自分の考えは間違っていない」と安心したいという気持ちが働くのです。SNSで、自分が日頃から関心を持っている話題や、賛同できる意見ばかりが目に留まりやすいのは、このバイアスの影響も大きいと言えます。

次に、願望充足の心理です。「こうなってほしい」「こうあってほしい」という願望が強いほど、それを肯定する情報を受け入れやすくなります。例えば、自分が応援しているチームや候補者にとって都合の良い情報、あるいは自分の生活が良くなることを示唆する情報などに、根拠が薄くても期待を込めて「信じたい」と感じることがあります。

また、不安の軽減も重要な要因です。不確実な状況や、理解できない出来事に直面したとき、人は明確な説明や原因を求めがちです。たとえそれが単純化されすぎた情報や、特定の誰かを非難するような情報であっても、「これが原因だ」「こうすれば大丈夫だ」という明快な答えを示されると、不安が和らぎ、それを「信じたい」と感じてしまうことがあります。

これらの心理は、人間として自然なものです。しかし、ポスト真実時代においては、こうした心理につけ込む形で、意図的に感情に訴えかける情報や、誤解を招く情報が拡散されるリスクがあることを理解しておく必要があります。

「信じたい」情報に流されることのリスク

「信じたい」という気持ちだけで情報を受け入れてしまうと、以下のようなリスクが生じます。

「信じたい」情報に出会ったときの向き合い方

では、「信じたい」という感情が動いた情報に出会ったとき、どのように向き合えば良いのでしょうか。

1. 自分の感情に気づくこと

まず大切なのは、「ああ、自分はこの情報を信じたいと感じているな」と、自分の心の動きに意識的に気づくことです。「これは嬉しい情報だ」「これは不安を煽るけれど、腑に落ちる気がする」など、どのような感情が湧いているのかを認識します。感情は自然な反応ですが、その感情が情報判断に影響を与えようとしている、という一歩引いた視点を持つことが第一歩です。

2. 一旦立ち止まり、情報源を確認する

感情が動いたときこそ、一度立ち止まる習慣をつけましょう。そして、その情報がどこから来ているのか、誰が発信しているのかを確認します。その情報源は信頼できるでしょうか。専門機関や大手メディアの発信でしょうか。それとも個人のブログやSNSの投稿でしょうか。信頼できる情報源であっても、その情報が一次情報(発信者自身が直接見聞きしたもの)なのか、二次情報(他の情報源を基にしたもの)なのかも重要な判断材料となります。

3. 根拠を探す

なぜその情報が正しいと言えるのか、具体的な根拠を探してみましょう。データや統計、専門家の見解、具体的な事例などが示されているでしょうか。もし根拠が不明確だったり、個人の感想や伝聞に基づいているだけであったりする場合は、慎重な判断が必要です。また、提示されているデータや統計も、どのように集計されたものか、都合よく切り取られていないかなど、批判的な視点を持つことが大切です。

4. 異なる視点や反論を探してみる

自分が「信じたい」と感じた情報に対して、意図的に異なる視点や反論を探してみることも有効です。「この情報は本当だろうか?」「この情報に反論する意見はないだろうか?」と疑問を持つことで、情報に対する多角的な理解が進みます。検索エンジンを使って関連情報を調べたり、信頼できる複数の情報源で同じテーマについて確認したりする習慣をつけましょう。

5. 情報との健全な距離を保つ

あまりにも多くの情報に触れすぎると、感情が揺さぶられやすくなり、冷静な判断が難しくなります。「情報疲れ」を感じたら、意図的に情報から離れる時間を持つことも大切です。SNSの通知をオフにする、特定の時間帯だけ情報収集にあてるなど、自分に合った情報の摂取ルールを作ることで、感情に振り回されずに情報と向き合うことができるようになります。

まとめ

ポスト真実時代において、私たちの感情、特に「信じたい」という気持ちは、情報判断に大きな影響を与えうる要因です。それは人間として自然な心の動きですが、その影響を理解し、意識的に情報と向き合う姿勢が求められます。

「信じたい」と感じたときこそ一旦立ち止まり、自分の感情に気づき、情報源や根拠を確認し、異なる視点を探求する。こうしたプロセスを丁寧に踏むことで、感情に流されずに、より確かな情報を見極める力を養うことができます。

情報過多な時代でも、主体的に情報と向き合い、自分自身の羅針盤を持って航海していくために、ぜひここでご紹介したヒントを日々の情報との関わりの中で実践してみてください。