ポスト真実の羅針盤

その情報、誰が何のために?発信者の意図を考える見極め方

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情報の海で立ち止まる:「誰が」「何のために」を問う視点

私たちが日々触れる情報は、かつてないほど多様化し、量も膨大になっています。スマートフォンの通知、SNSのタイムライン、ニュースアプリのヘッドライン。情報の波に乗り遅れないよう、つい表面的な内容だけを追ってしまうことも多いのではないでしょうか。

しかし、ポスト真実と呼ばれるこの時代において、情報はその見た目ほど単純ではありません。あらゆる情報には、それを発信する「誰か」がいて、その発信には必ず何らかの「意図」が存在します。この発信者の意図に気づくことが、情報の真偽や価値を見極める上で非常に重要な羅針盤となります。

では、どうすれば情報の裏側にある発信者の意図を読み解くことができるのでしょうか。ここでは、そのための考え方と具体的なヒントをご紹介します。

なぜ発信者の意図を考える必要があるのか

情報は客観的な事実だけを伝えているとは限りません。発信者は、特定の目的を達成するために、情報のどの部分を伝え、どの部分を強調し、あるいは伏せるかを選択しています。

例えば、ある商品の広告は、その商品の良い点を最大限にアピールするために作られています。企業のプレスリリースは、企業にとって有利な情報を中心に構成されることが多いでしょう。政治家の発言には、自身の支持率向上や政策への理解を求める意図が込められています。個人のSNS投稿でさえ、他者からの共感や承認を得たい、あるいは特定の考えを広めたいという意図がある場合があります。

情報を受け取る側が、この発信者の意図を理解しないまま、表面的な情報だけを鵜呑みにしてしまうと、知らず知らずのうちに特定の方向に誘導されたり、偏った情報に基づいて判断を下してしまったりするリスクが高まります。情報に流されず、主体的に真実を見極めるためには、まず「この情報は誰が、何のために発信しているのだろうか」と問いかける習慣を持つことが不可欠なのです。

発信者の意図を見抜くための具体的なヒント

では、どのようにして発信者の意図を推測すれば良いのでしょうか。いくつか具体的なヒントをご紹介します。

1. 「誰が」発信しているのかを確認する

最も基本的なステップは、その情報の「発信者」を特定することです。個人なのか、企業なのか、報道機関なのか、特定の団体なのか。そして、その発信者の背景、立場、過去の言動などを調べてみましょう。発信者の信頼性や専門性だけでなく、その組織や個人の基本的な理念や利害関係を知ることは、意図を推測する上で重要な手がかりとなります。匿名の情報であれば、その信頼性はさらに慎重に判断する必要があります。

2. 「何のために」発信しているのかを推測する

発信者の特定ができたら、次に「なぜこの情報が発信されたのだろうか」「この発信によって発信者はどうなってほしいのだろうか」と考えてみましょう。

こうした目的をいくつか推測してみることで、情報の「建前」の裏にある「本音」や「ねらい」が見えてくることがあります。

3. 「誰に向けて」発信されているのかを考える

情報はそのターゲットによって内容や表現が変わります。専門家向けなのか、一般大衆向けなのか、特定の趣味を持つ人向けなのかなど、想定される読者や視聴者を考えてみましょう。ターゲットが分かると、なぜそのような言葉遣いや構成になっているのかが理解でき、発信者の意図にさらに迫ることができます。

4. 使われている「言葉遣い」や「表現」に注目する

感情に強く訴えかける言葉(「絶対に」「驚くべき」「許せない」など)、断定的な表現、特定の感情(不安、怒り、喜びなど)を煽るような表現が多く使われている場合、それは客観的な事実伝達よりも、受け手の感情や行動を特定の方向に向けさせたいという強い意図があるサインかもしれません。冷静で客観的な記述になっているか、感情的な偏りがないかを確認してみましょう。

5. 「語られていないこと」や「省略されていること」はないかを探す

発信者は意図を持って情報を取捨選択しています。あえて触れられていない側面や、都合の悪い事実が省略されていないか注意深く読んでみましょう。そのためには、その情報に関連する他の情報源(賛否両論双方の意見や、異なる立場の情報源)と比較検討することが有効です。これにより、情報全体のバランスや偏りが見えてきます。

6. 情報の「根拠」とその信頼性を確認する

主張や意見には、それを裏付ける根拠が示されているかを確認しましょう。示されている場合、その根拠(データ、調査結果、専門家の見解など)は信頼できるものか、出典は明確か、恣意的に解釈されていないかなどを吟味します。根拠が不明確な情報や、断定的な主張は、強い意図や願望が含まれている可能性があります。

日常で実践するための第一歩

これらのヒントを全て駆使するのは難しいと感じるかもしれません。まずは、あなたが普段よく触れる情報の中から一つを選んで、「これは誰が、何のために発信しているのだろう?」とシンプルに問いかけてみることから始めてください。ニュースの見出し、SNSの友人やインフルエンサーの投稿、商品の宣伝メールなど、身近な情報で練習してみるのが良いでしょう。

すぐに発信者の意図が完全に理解できなくても構いません。「そういう視点があるんだな」と意識するだけでも、情報の受け取り方は変わってきます。

まとめ

ポスト真実時代において、情報の海を安全に航海するためには、情報の表面だけを見るのではなく、その裏側にある「発信者の意図」を読み解く視点が不可欠です。

「誰が」「何のために」この情報を発信しているのだろうか? 使われている言葉遣いに偏りはないか? 語られていない情報はないか? 根拠は信頼できるか?

こうした問いかけを習慣にすることで、私たちは情報の波にただ流されるのではなく、主体的に情報を選び取り、真実を見極める力を養っていくことができるでしょう。少しずつでも、この視点を意識して情報に触れてみてください。それは、あなたが情報に振り回されることなく、自信を持って判断を下すための確かな羅針盤となるはずです。