情報を手放す勇気 ポスト真実時代に大切な「捨てる」選択
情報過多の時代に感じる、見えない重圧
私たちは今、かつてないほど大量の情報に囲まれて生活しています。スマートフォンを開けば、SNSやニュースアプリから常に新しい情報が流れ込みます。世界で起こっている出来事、気になる商品のレビュー、友人の日常、専門家の解説など、その種類も多岐にわたります。
こうした情報へのアクセスは、私たちの世界を広げ、知識を深める機会を与えてくれます。しかし同時に、情報が多すぎることによる疲弊や不安を感じることも少なくないのではないでしょうか。
「この情報を見逃したら損をするのではないか」 「みんなが知っていることを、自分だけ知らないのはまずいのではないか」
このように感じ、次々と流れてくる情報を追いかけることに、一種の義務感や焦りを感じることもあるかもしれません。情報の波にのまれてしまい、何が本当に重要なのか、何が真実なのかを見極めることが難しくなっていると感じる方もいらっしゃるでしょう。
見極めスキルと同時に大切な「捨てる」勇気
ポスト真実時代において、多様な情報の中から真実を見極めるためには、批判的に情報を評価するスキルが不可欠です。情報源を確認したり、複数の情報と比較したり、「事実」と「意見」を区別したりといった視点は、本サイトでも度々取り上げてまいりました。
しかし、情報過多な状況に対処するためには、もう一つの重要な視点があると考えています。それは、「情報を積極的に『捨てる』、つまり手放す勇気を持つこと」です。
全ての情報に目を通し、全てを理解し、全てを判断しようとすることは、物理的にも精神的にも不可能に近い行為です。情報を効率的に処理し、本当に価値のある情報にたどり着くためには、自分にとって不要な情報、あるいは現時点では不要な情報を意図的に手放す、という選択が必要になってきます。
なぜ情報を「捨てる」ことが重要なのか
情報を「捨てる」という言葉には、少しネガティブな響きがあるかもしれません。「せっかくの情報なのに」「知っておくべきことかもしれないのに」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、情報を手放すことは、決して後ろ向きなことではありません。むしろ、限られた時間や認知資源を有効に使い、自分にとって本当に大切な情報や、より深く向き合うべき情報に集中するための、主体的で前向きな選択と言えます。
情報を手放すことが重要である理由はいくつかあります。
- 認知負荷の軽減: 私たちの脳が一度に処理できる情報量には限界があります。情報過多は脳に過剰な負荷をかけ、思考力や判断力を鈍らせる可能性があります。不要な情報を減らすことは、脳の「断捨離」のようなものです。
- 誤情報やノイズからの保護: ポスト真実時代には、意図的かどうかにかかわらず、不正確な情報やノイズが大量に流通します。全ての情報に触れようとすることは、これらの誤情報に触れるリスクを高めることになります。信頼できる情報源に絞り込むことで、ノイズを減らすことができます。
- 精神的な平穏の確保: 常に新しい情報に追われる感覚や、ネガティブなニュースに触れ続けることは、不安やストレスの原因となります。情報との適切な距離を取ることは、心の健康を保つために重要です。
- 本当に大切な情報への集中: 不要な情報に時間を取られていると、自分にとって本当に役立つ情報や、じっくり考えたいテーマに関する情報を見落としてしまう可能性があります。情報を絞り込むことで、より質の高い情報に時間を使えるようになります。
情報を手放すための判断基準と実践的なヒント
では、具体的にどのような情報を手放せば良いのでしょうか。全てを一律に「捨てる」のではなく、自分にとって何が必要で、何が不要かを判断するための基準を持つことが役立ちます。
判断基準の例
- 目的適合性: その情報は、あなたの仕事、趣味、健康、人間関係など、現在のあなたの生活や目的にとって本当に役立つ情報ですか。単なる好奇心や漠然とした不安からではなく、具体的な目的と結びついているか考えてみてください。
- 信頼性: その情報源は信頼できますか。過去に正確な情報を提供してきたか、特定の立場に偏っていないかなどを考慮します。ただし、「怪しいかもしれない」と感じる全ての情報を深追いする必要はありません。現時点で判断が難しければ、一旦保留する、という選択肢もあります。
- 感情への影響: その情報に触れることで、過度にネガティブな感情(怒り、不安、絶望など)に心をかき乱されていませんか。冷静な判断ができなくなるほど感情的に揺さぶられる情報は、一時的に距離を置くことを検討しても良いかもしれません。
- 情報の新規性・重複: その情報は、すでにあなたが持っている知識や、他の情報源から得た情報と比べて、新しい視点や重要な情報を提供していますか。繰り返し同じような情報に触れている場合は、その情報源からの情報収集を一時的に控えることも考えられます。
- 「知らなければならない」という強迫観念: 「みんなが知っているから」「知っておかなければ恥ずかしいから」といった理由だけで情報を追いかけていませんか。他者の価値観に流されず、自分にとって何が本当に必要かを見つめ直すことが大切です。
実践的なヒント
情報を意図的に手放すために、すぐにでも試せる具体的な方法をいくつかご紹介します。
- 情報収集の時間を区切る: スマートフォンを見たり、ニュースサイトをチェックしたりする時間を、1日のうちで特定の時間帯に限定します。例えば、「朝の通勤時間だけ」「昼休憩の15分だけ」のように決めてみましょう。
- 通知設定を見直す: アプリからのプッシュ通知は、情報に常に反応してしまう原因の一つです。必要のないアプリや、リアルタイム性が重要でない情報の通知はオフに設定します。
- フォローや購読リストを整理する: SNSでフォローしているアカウントや、ニュースレターの購読リスト、よく見るウェブサイトなどを定期的に見直します。もはや関心がないものや、ネガティブな感情を引き起こす情報源は、フォローを解除したり、購読を中止したりすることを検討します。
- 一時的なデジタルデトックスを試みる: 週末だけ、あるいは数時間だけでも、意図的にデジタルデバイスから離れる時間を作ってみましょう。情報から距離を置くことで、心がリフレッシュされ、本当に必要な情報が見えやすくなることがあります。
- 「知らない」ことを恐れない: 全てを知っている必要はありません。自分が関心のない分野や、現時点では優先度の低い情報について、「知らなくても大丈夫」と自分に許可を与えてみましょう。
「捨てる」選択が導く、自分だけの羅針盤
情報を見極めるスキルは、ポスト真実時代を生きる上で非常に重要です。しかし、情報過多の波に溺れず、自分にとって本当に価値のある情報を見つけ出すためには、「情報を手放す勇気」も同じくらい大切になります。
情報を手放すことは、決して無関心になることや、真実から目を背けることではありません。それは、主体的に情報との関わり方を選び、限りある時間とエネルギーを自分にとって最も重要なことに使うための、賢明な選択です。
情報との健全な距離感を保ち、「捨てる」という選択を意図的に行うことで、情報のノイズから解放され、本当に信頼できる情報や、自分の考えを深めるために必要な情報が見えやすくなるでしょう。
あなたにとって、本当に必要な情報はどこにありますか? そして、何を「手放す」ことで、その情報にたどり着きやすくなるでしょうか。ぜひ一度、立ち止まって考えてみてください。情報を手放す勇気は、ポスト真実の時代を自分らしく生き抜くための、強力な羅針盤となるはずです。