ポスト真実時代に流されない、「自分のものさし」で情報を見極める
ポスト真実時代、情報の波に「自分のものさし」を
日々、スマートフォンやパソコンを通じて膨大な情報が流れ込んできます。SNSのタイムライン、ニュースアプリのプッシュ通知、Webサイトの記事。かつてないほど多くの情報に簡単にアクセスできるようになった現代は、まさに「情報過多」の時代と言えるでしょう。
しかし、情報の量が増えるほど、「何が本当なのか」「何を信じれば良いのか」と迷ってしまうことも増えているのではないでしょうか。特に、個人の意見や感情が事実と同じように拡散されやすい「ポスト真実」と呼ばれる時代においては、情報の真偽を見極めることは容易ではありません。
多くの情報に触れる中で、知らず知らずのうちに特定の意見に染まってしまったり、断片的な情報に振り回されて不安を感じたりすることもあるかもしれません。このような状況で、情報の海に溺れず、自分自身でしっかりと舵を切るためには、「自分のものさし」を持つことが非常に重要になります。
では、「自分のものさし」とは一体何でしょうか。そして、どのようにすればそれを手にすることができるのでしょうか。
なぜ「自分のものさし」が必要なのか
「自分のものさし」とは、絶対的な「真実」を測る唯一無二の道具ではありません。それは、あなたが情報に触れた際に、その内容をどのように受け止め、どのように判断するかという、あなた自身の内にある基準や視点のことです。
情報過多な時代にこれが求められるのには、いくつかの理由があります。
まず、情報の多様化と玉石混淆化が進んでいるためです。公式な機関からの発表から、専門家による分析、個人の体験談や憶測まで、あらゆる種類の情報が同じプラットフォーム上で混ざり合って流通しています。その中には、意図的に事実を歪めたものや、誤解を招くような情報も紛れています。
次に、情報の受け手である私たち自身の心の働きも関係しています。人間には、自分が信じたい情報を無意識に選んでしまったり、多くの人が信じていることを正しいと思い込んだりする傾向があります(認知バイアス)。また、強い感情を伴う情報に引きつけられやすく、冷静な判断が難しくなることもあります。
このような状況で、他者の意見や一時的な感情、あるいはアルゴリズムによって選ばれた情報だけに頼って判断していると、情報の波に流されてしまいかねません。自分自身の「ものさし」を持つことは、こうした流れに無自覚に乗ってしまうのではなく、主体的に情報を選び、向き合うための強力なツールとなるのです。
「自分のものさし」を育てるヒント
「自分のものさし」は、生まれたときから備わっているものではなく、日々の経験や学びを通して意識的に育てていくものです。ここでは、そのための具体的なヒントをいくつかご紹介します。
ヒント1:あなたが何を大切にしたいかを考えてみる
「自分のものさし」の基盤となるのは、あなた自身の価値観や倫理観です。社会に対してどのようなことを望むのか、人間関係で何を重んじるのか、自分自身の幸せにとって何が重要なのか。こうした、あなたが人生で大切にしたいと思っていることは何かを、一度じっくり考えてみましょう。
この価値観が明確になるほど、情報に触れた際に「これは自分が大切にしていることに沿っているか」「これは自分が望む社会の姿に貢献するか」といった視点を持つことができるようになります。これが、情報を選び取る最初のフィルターとなります。
ヒント2:情報に触れる「姿勢」を意識する
「自分のものさし」は、具体的な情報の見極め方とも連動しています。これまでの記事でも触れてきたように、情報源の信頼性を確認したり、一つの情報だけでなく複数の情報源にあたってみたり、発信者の意図を考えてみたりすることは、ものさしを機能させる上で欠かせません。
加えて、「すぐに信じ込まない」という姿勢も大切です。特に、あなたの感情を強く揺さぶるような情報に出会ったときは、一度立ち止まり、冷静に情報の内容やその背景を考えてみる時間を取りましょう。衝動的な反応ではなく、意図的に考えるプロセスを挟むことが、ものさしの精度を高めます。
また、あなたが既に持っている知識や経験と、新しい情報が矛盾する場合、なぜそう感じるのかを掘り下げて考えてみることも、ものさしを研ぎ澄ます作業になります。自分の先入観に気づくきっかけにもなるでしょう。
ヒント3:完璧を目指さず、学び続ける姿勢を持つ
「自分のものさし」は、一度作ったら終わりというものではありません。社会状況は常に変化し、新しいタイプの情報やコミュニケーションが生まれてきます。また、あなた自身の価値観も、経験や学びを通して変化していくものです。
ですから、自分の「ものさし」は常に仮のものであると考え、新しい情報や異なる視点に触れるたびに、「自分のものさしはこれで良いか」「何か見落としていることはないか」と問い直し、必要に応じて調整していく柔軟な姿勢が重要です。失敗から学ぶことも、ものさしをより良いものにしていく糧となります。
例えば、ある情報を信じて行動した結果、それが誤りであったと気づいたとします。その時に、なぜ誤った判断をしてしまったのか、どのような点を見落としていたのかを振り返ることで、次に同じような情報に触れた際に、より適切な判断ができるようにものさしを修正することができるのです。
情報判断に「自信」を持つために
「自分のものさし」を持つことは、情報過多な状況での不安を軽減し、情報判断に対する自信を持つことにつながります。すべての情報を完璧に見極めることは難しいかもしれません。しかし、自分の中にしっかりとした基準を持つことで、少なくとも「自分はこの基準に基づいて判断したのだ」という納得感を得ることができます。
情報に流されるのではなく、自分自身の価値観や学びに基づいた「自分のものさし」で情報と向き合うこと。それは、ポスト真実時代を navigated (ナビゲート) し、あなたにとって本当に有益で信頼できる情報を選び取るための、何より頼りになる羅針盤となるでしょう。
今日から少しずつ、情報に触れる際の「自分のものさし」を意識し、育ててみてはいかがでしょうか。