ポスト真実の羅針盤

「きっと常識だろう」が危ない? ポスト真実時代に「みんなの意見」と向き合う方法

Tags: ポスト真実, 情報リテラシー, 常識, 多数意見, 情報判断, 認知バイアス

はじめに

私たちは日々、膨大な情報に触れています。特にSNSやインターネットの普及により、様々な意見や情報が瞬く間に共有されるようになりました。その中で、「これはきっと常識だろう」「みんながそう言っているから正しいだろう」と、無意識のうちに受け入れている情報も少なくないのではないでしょうか。

しかし、ポスト真実と呼ばれる現代においては、かつての「常識」が必ずしも真実ではないことがあります。また、「みんなの意見」が、必ずしも正確な情報に基づいているとは限りません。情報過多の状況で、何が真実かを見極めることに迷いを感じる方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、「常識」や「みんなの意見」に潜む落とし穴と、それらに流されずに情報を判断するための視点について考えていきます。情報との賢い付き合い方を見つけ、情報過多による不安を軽減する一助となれば幸いです。

なぜ「常識」や「みんなの意見」が危ういのか

私たちは、社会の中で円滑に暮らすために「常識」や「多数派の意見」を尊重する傾向があります。これは、多くの人が経験や知識を共有することで形成された「集合知」として機能する場合もあります。しかし、こと情報の真偽という点においては、以下のような危うさが潜んでいます。

1. 情報源の不明確さ

「常識」とされることや、「みんなが言っている意見」の多くは、その情報の最初の出所がはっきりしないことがあります。「誰かが言っていた」「インターネットで見かけた」といった曖昧な情報源に基づいている場合、その根拠を確認することは困難です。

2. 伝言ゲームによる歪みと誇張

情報が多くの人々の間を伝わるうちに、元の情報が歪められたり、意図せず誇張されたりすることがあります。特に、感情的な側面やセンセーショナルな内容は伝わりやすく、事実からかけ離れてしまうケースも少なくありません。

3. 認知バイアスの影響

人間は、自分が信じたい情報を優先的に受け入れたり(確証バイアス)、周囲の意見に流されやすかったり(同調バイアス)といった認知バイアスを持っています。これらのバイアスによって、「みんなの意見」に沿った情報だけが選択され、異なる視点が排除されてしまうことがあります。以前の記事でも認知バイアスについては触れましたが、これが「常識」形成にも大きく影響します。

4. 意図的なデマやプロパガンダへの利用

「みんなが言っている」という形は、意図的に作られたデマやプロパガンダを広める上で非常に効果的です。まるで多くの人が信じているかのように見せかけることで、情報の信憑性を偽装し、人々の判断を惑わせることがあります。

5. フィルタリングバブルによる閉鎖性

SNSなどのアルゴリズムは、ユーザーが興味を持ちそうな情報や、似た意見を持つ人たちの情報を優先的に表示します。このフィルタリングバブルの中にいると、自分と異なる意見や、「みんなの意見」とは異なる視点に触れる機会が極端に減ってしまいます。これにより、自分の周りの意見こそが「常識」だと誤認してしまう危険性があります。

「常識」「みんなの意見」とどう向き合うか

では、このような危うさを持つ「常識」や「みんなの意見」に対して、私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。情報過多の中でも流されずに、主体的に情報を判断するための実践的なヒントをいくつかご紹介します。

ヒント1: 一旦立ち止まり、「本当にそうかな?」と問いかける

「これは常識だ」「みんなこう言っている」と感じたときこそ、一度立ち止まる習慣をつけましょう。「本当にそうなのだろうか?」「他に違う意見はないだろうか?」と自分に問いかけることから始めてみてください。この小さな問いかけが、鵜呑みにすることを防ぐ第一歩となります。

ヒント2: 情報源の確認を試みる

その情報がどこから来ているのか、可能であればその情報源を遡ってみましょう。個人のブログやSNSの投稿なのか、信頼できる報道機関や専門機関の発表なのか。情報源によって、その情報の信頼性は大きく異なります。曖昧な情報源の場合は、特に注意が必要です。

ヒント3: 複数の視点を探る

ある情報や意見に対して、賛成意見だけでなく、反対意見や異なる視点を探してみましょう。インターネット検索をする際にも、関連キーワードを変えて検索したり、異なる立場のメディアの記事を読んでみたりすることが有効です。多様な視点に触れることで、情報の全体像をより正確に把握できるようになります。

ヒント4: 具体的な根拠を求める

「〇〇らしい」「みんながそう感じている」といった曖昧な情報ではなく、その情報がどのような事実やデータに基づいているのかを確認するように努めましょう。数値データ、研究結果、一次資料など、具体的な根拠が示されている情報は、感情論や憶測に基づいた情報よりも信頼性が高いと言えます。

ヒント5: 感情の動きに注意を払う

ある情報に触れた際に、強い怒りや不安、喜びといった感情が湧き起こった場合は、一度立ち止まるサインかもしれません。感情が判断を曇らせ、冷静な分析を妨げることがあります。感情を完全に排除することは難しいですが、「今、自分は感情的に反応しているかもしれない」と自覚するだけでも、情報の受け止め方が変わってきます。

ヒント6: 身近なことから「調べてみる」を実践する

日常生活の中にある、なんとなく信じている「常識」について、軽い気持ちで少し調べてみることから始めてみましょう。「トイレットペーパーの三角折りは非常識?」「風邪にはネギが良いって本当?」など、身近なテーマから始めることで、「疑って調べてみる」という習慣を楽しく身につけることができます。

まとめ

ポスト真実時代において、「常識」や「みんなの意見」は、必ずしも真実を示す羅針盤にはなりません。むしろ、それに安易に流されることは、誤った情報や意図的な操作に惑わされるリスクを高めます。

情報過多な社会で自信を持って情報を判断するためには、「これはきっと常識だろう」と受け入れる前に、一度立ち止まり、問いかけ、複数の視点から情報を吟味する姿勢が重要です。情報源を確認し、具体的な根拠を求め、感情に注意を払いながら、主体的に情報と向き合うこと。これらの実践的なステップは、決して難しいことではありません。

不安を感じる必要はありません。小さな一歩から、「常識」という名の情報と賢く付き合う術を身につけていくことが、ポスト真実時代を生き抜くための確かな羅針盤となるはずです。