「本当?」と立ち止まる習慣 - ポスト真実時代に磨く批判的思考のヒント
氾濫する情報の中で「立ち止まる」ということ
私たちの日常は、かつてないほど多くの情報に囲まれています。SNSのタイムライン、ニュースアプリの通知、友人からのメッセージなど、次から次へと新しい情報が飛び込んできます。その中には、役に立つ情報もあれば、そうでないもの、あるいは意図的に歪められた情報も含まれています。
特に「ポスト真実」と呼ばれる現代では、「感情」や「信念」が客観的な「事実」よりも重視され、情報の真偽が曖昧になりがちです。何が本当で、何が違うのか。多くの情報に触れる中で、迷いや不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
このような時代に、情報に流されず、自分自身で真実を見極めるために役立つのが「立ち止まる」という習慣です。これは、すぐに情報を鵜呑みにせず、一呼吸置いて考えるための、情報との向き合い方の第一歩と言えるでしょう。
なぜ、私たちはすぐに信じてしまうのか?
私たちが情報を目にしたとき、無意識のうちにすぐに信じてしまったり、反射的に感情を動かされたりすることがあります。これにはいくつかの理由があります。
- 情報のスピード: SNSなどでは情報が猛烈な速さで共有されます。乗り遅れたくない、早く知りたいという気持ちから、深く考えずに受け入れてしまいがちです。
- 感情への訴えかけ: 感情的に訴えかける情報は、私たちの心に強く響き、信じやすくなります。「かわいそう」「ひどい」といった感情が、情報の真偽よりも先行してしまうことがあります。
- 認知バイアス: 人間には、自分の考えや信じたいことを補強する情報を集めやすい(確証バイアス)、みんなが信じていることは正しいと感じやすい(同調バイアス)など、情報判断を歪める無意識の傾向(認知バイアス)があります。
これらの要因が組み合わさることで、私たちは「これは本当らしい」とか「みんなが言っているからきっとそうだろう」と感じ、深く疑うことなく情報を受け入れてしまうのです。
「批判的思考」は難しいものではない
「立ち止まる」習慣は、「批判的思考」の入り口とも言えます。批判的思考と聞くと、何か難しい理論のように感じるかもしれませんが、決してそうではありません。
批判的思考とは、情報に対して一方的に受け入れるのではなく、「それは本当だろうか?」「なぜそう言えるのだろうか?」「他に考えられる可能性はないだろうか?」といった健全な疑問を持ち、論理的に考えて判断しようとする姿勢のことです。
これは、あら探しをしたり、他人の意見を否定したりすることとは異なります。情報や物事を多角的な視点で見つめ、より正確で、より良い理解にたどり着くための考え方なのです。
日常で実践できる「立ち止まる」習慣のヒント
では、具体的にどのようにすれば、日常の中で「立ち止まる」習慣を身につけ、批判的思考の第一歩を踏み出せるのでしょうか。いくつかの簡単なヒントをご紹介します。
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ヒント1:すぐに「シェア」や「いいね」を押す前に一呼吸 SNSなどで衝撃的な情報や共感を呼ぶ情報を見つけたとき、すぐに「シェア」ボタンや「いいね」ボタンに手が伸びそうになるかもしれません。しかし、ここで一度立ち止まりましょう。この情報は信頼できるものだろうか? もし間違っていた場合、誰かを傷つけないだろうか? と考える癖をつけるだけで、情報の拡散に加担するリスクを減らすことができます。
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ヒント2:情報源を気にする癖をつける その情報が「誰から」「どこから」発信されているのかを確認しましょう。個人のブログなのか、大手メディアなのか、専門機関の発表なのか。情報源によって、情報の信頼性や意図は大きく異なります。見慣れない情報源の場合は、少し調べてみるのも良いでしょう。
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ヒント3:一つの情報だけで判断しない 気になる情報を見つけたら、別の情報源でも同じ内容が報じられているか確認してみましょう。複数の情報源で裏付けが取れる情報は、信頼性が高いと言えます。逆に、一つの情報源でしか語られていない、あるいは特定の方向へ誘導するような情報には注意が必要です。
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ヒント4:感情が動いたときこそ冷静に 怒りや不安、喜びなど、強い感情を刺激される情報に出会ったら、特に注意が必要です。感情は情報判断を鈍らせることがあります。「なぜ自分はこんなに感情が動いたのだろう?」と一歩引いて考えてみることで、情報そのものを客観的に見やすくなります。
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ヒント5:「なぜ?」とシンプルに問いかけてみる 「〇〇は体に良いらしい」「△△のせいで景気が悪い」といった情報に対して、「なぜ体に良いと言えるのだろう? その根拠は?」「本当に△△だけが原因なのだろうか? 他の要因は?」とシンプルに「なぜ?」と問いかけてみましょう。この問いかけが、情報の背景や根拠を探るきっかけになります。
これらのヒントは、どれもすぐに実践できる小さな心がけです。完璧に行う必要はありません。まずは一つ、意識的に日常に取り入れてみることから始めてはいかがでしょうか。
「立ち止まる」ことで広がる視点
「本当?」と立ち止まる習慣は、情報を見極めるだけでなく、私たちの視野を広げることにも繋がります。一つの情報に囚われず、多様な視点から物事を考えることができるようになるからです。
情報過多の時代に、情報の波にただ漂うのではなく、主体的に情報と向き合うための羅針盤として、「立ち止まる」というシンプルな行動を大切にしてみてください。その小さな一歩が、あなたが自信を持って情報を判断し、確かなものを掴むための確かな力となるはずです。