流されない情報判断のために - 「自分で考える」習慣を身につける
はじめに
現代社会は、まさに情報の洪水の中にあります。SNS、ニュースアプリ、ウェブサイトなど、私たちの周りには絶えず新しい情報が流れ込んできます。知りたいこと、興味のあることだけでなく、意図せず目に飛び込んでくる情報も少なくありません。
このような状況下で、何が「真実」なのかを見極めることは、時に非常に難しく感じられるかもしれません。「ポスト真実」と呼ばれるこの時代には、客観的な事実よりも、個人の感情や信念、あるいは特定の意図に基づいた情報が影響力を持つことがあります。
膨大な情報の中で迷い、何となく流されてしまうことに不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。自信を持って情報を判断できるようになるためには、受け身で情報を消費するだけでなく、主体的に情報と向き合い、「自分で考える」習慣を身につけることが重要になります。
この記事では、情報過多なポスト真実時代に流されず、自分自身で情報を判断するための「考える力」を養う習慣について考えていきます。
「自分で考える」とはどのようなことか
「自分で考える」と聞くと、難しく感じるかもしれません。これは、単に何かを疑うこととは少し異なります。ここでの「自分で考える」とは、与えられた情報を鵜呑みにせず、その情報がどのような性質を持ち、どのような意図で発信されているのか、そして自分自身はどう受け止めるべきなのかを、立ち止まって、多角的に検討する姿勢を指します。
具体的には、以下のような問いを自分自身に投げかけることです。
- その情報はどこから来ているのか?(情報源は信頼できるか?)
- その情報はいつ、どのような状況で発信されたのか?(最新の情報か?特定の出来事に対する反応か?)
- その情報の根拠は何だろうか?(客観的なデータや証拠に基づいているか?)
- その情報には、どのような感情や意見が含まれているだろうか?
- その情報を受け取ることで、自分はどのように感じるか?なぜそう感じるのか?
- この情報とは異なる視点や意見は存在しないか?
- この情報が広がることで、誰が、どのような影響を受ける可能性があるか?
このように、情報の背景や意図、そして自分自身の受け止め方について意識的に考えることが、「自分で考える」第一歩となります。
なぜ「自分で考える」ことが難しくなっているのか
「自分で考える」ことが重要だと分かっていても、実践が難しいのにはいくつかの理由があります。
一つは、情報のスピードと量です。次々と新しい情報が押し寄せる中で、一つ一つ立ち止まって深く考える時間や心の余裕を持ちにくい状況があります。反射的に反応したり、短い情報で判断したりしがちです。
また、私たちの認知バイアスも影響します。人間は、自分の既に持っている信念や価値観に合致する情報を無意識に優先したり、逆に反する情報を避ける傾向があります(確証バイアスなど)。これは、情報処理の負担を減らすために必要な側面もありますが、偏った情報だけを受け取りやすくなる原因にもなります。
さらに、SNSなどのプラットフォームは、私たちの興味や関心に基づいた情報を優先的に表示するアルゴリズムを使用しています。これにより、自分と似た考えを持つ人たちの意見ばかりを目にする「フィルタリングバブル」や「エコーチェンバー」と呼ばれる現象が起こりやすくなります。自分とは異なる視点や意見に触れる機会が減り、多様な情報から「自分で考える」ための材料が得られにくくなるのです。
ポスト真実時代においては、意図的に感情に訴えかけるような情報や、事実の一部を切り取ったり歪曲したりした情報が巧妙に拡散されることもあります。これらは私たちの感情を強く刺激し、「立ち止まって考える」よりも先に「信じる」「共有する」といった行動を促しやすい性質を持っています。
「自分で考える」習慣を身につけるための実践的ヒント
情報過多な時代に流されず、主体的に情報と向き合うための「自分で考える」習慣は、日々の少しずつの意識と実践によって身につけることができます。以下に、すぐにでも取り入れられるヒントをいくつかご紹介します。
ヒント1:情報ソースを複数確認する
気になる情報や、特に感情を揺さぶられるような情報に触れた際は、すぐに判断せず、複数の情報源を確認する習慣を持ちましょう。信頼性の高いとされる大手メディア、専門機関の発表、一次情報(政府機関の統計データなど)など、異なる角度から同じ情報に触れることで、その情報の全体像や異なる見方を知ることができます。
ヒント2:「なぜ?」と問いかける癖をつける
目にした情報に対して、「なぜそう言えるのだろう?」「その根拠は何だろう?」と疑問を持つ癖をつけましょう。記事の見出しだけでなく本文を読む、提示されているデータがあればその出典を確認するなど、一歩踏み込んで情報を深掘りする意識を持つことが重要です。
ヒント3:自分の感情や前提を意識する
情報に触れたときに「これは正しいに違いない」「これは間違っている」と強く感じることがあれば、一旦立ち止まり、なぜそう感じるのか、自分にはどのような前提があるのかを意識してみましょう。自分の感情や既存の信念が、情報判断に影響を与えている可能性を理解することで、より客観的に情報を見つめ直すことができます。
ヒント4:意図的に異なる意見に触れる機会を作る
普段利用する情報源やSNSのタイムラインは、どうしても自分の興味や考えに偏りがちです。意識的に、自分とは異なる立場や意見に触れる機会を作りましょう。全てに同意する必要はありませんが、多様な視点があることを知るだけで、物事を多角的に捉える力が養われます。新聞の社説を読み比べる、異なる意見を持つ人の話を聞いてみるなどが有効です。
ヒント5:完璧な情報判断を目指さない
全ての情報の真偽を100%見抜くことは、専門家でも困難です。重要なのは、完璧を目指すことではなく、「自分で考えようとする姿勢」を持ち続けることです。分からないことがあっても気に病まず、少しずつでも「立ち止まって考える」訓練を続けることが大切です。
おわりに
ポスト真実時代を生きる私たちにとって、情報の波に溺れず、自分自身の羅針盤を持って進むためには、「自分で考える」力が欠かせません。これは特別な能力ではなく、日々の小さな習慣の積み重ねによって誰でも養うことのできるスキルです。
ご紹介したヒントは、すぐに実践できるものばかりです。完璧を目指す必要はありません。まずは、一つでも気になることから始めてみてください。情報に触れた際に、少し立ち止まり、「これはどういうことだろう?」と問いかけるその小さな一歩が、情報を主体的に判断するための確かな力となっていきます。
情報過多な状況に対する不安を和らげ、自信を持って情報と向き合えるようになるために、ぜひ「自分で考える」習慣を日々の生活に取り入れていただければ幸いです。