思わず信じるデマ、そのワケは?ポスト真実時代に誤情報と向き合うための心理と実践
デマや誤情報に触れる日々、なぜ私たちは惑わされるのか
SNSを開けば、様々な情報が波のように押し寄せます。ニュースサイトの速報、友人からのシェア、インフルエンサーの投稿。その中には、思わず目を引くような刺激的な情報や、「これは知らなかった」と驚くような内容も少なくありません。しかし、時にはそれが後からデマや不確かな情報だったと判明し、動揺したり、誰かに伝えてしまったことを後悔したりすることもあるかもしれません。
ポスト真実と呼ばれる現代は、情報の量だけでなく、その真偽が曖昧になりがちな時代でもあります。「何が本当の情報なのか」を見極めることに疲れや不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、なぜ私たちはデマや誤情報を信じてしまいやすいのか、その心理的な背景や情報が広がる仕組みを探ります。そして、多様な情報の中で冷静さを保ち、自分なりに情報と向き合うための実践的なヒントをお届けいたします。
なぜ「デマ」は魅力的に映るのか?思わず信じてしまう心理
まず、私たちはなぜデマや誤情報を信じやすいのでしょうか。それは、私たちの心に潜むいくつかの傾向が影響しています。
私たちの心に働く「バイアス」
私たちは、自分のこれまでの経験や考え方に合う情報を無意識に優先的に受け入れ、そうでない情報を軽視する傾向があります。これを「確証バイアス」と呼びます。例えば、「〇〇は体に悪いらしい」という自分の考えを裏付けるような情報に触れると、それがたとえ根拠の薄い情報であっても、「やっぱりそうなんだ」と信じやすくなります。
また、強く印象に残った出来事や、耳にした回数が多い情報ほど、正しい情報だと判断してしまう「利用可能性ヒューリスティック」という心の働きもあります。災害時のパニックを煽るような情報や、繰り返しSNSで流れてくるセンセーショナルな見出しは、私たちの記憶に残りやすく、「きっと本当だろう」という誤った判断に繋がりやすいのです。
感情が判断を鈍らせる
デマや誤情報には、私たちの感情に強く訴えかけるものが多いことに気づかれるかもしれません。「恐ろしい出来事が起きている」「これは許せない」といった不安、恐怖、怒り、あるいは「かわいそう」「助けたい」といった共感などが、私たちの判断力を低下させます。
感情が強く揺さぶられている時、人は冷静に情報の内容や情報源の確かさを検討するよりも、その感情を解消することや、感情の赴くままに行動すること(例: 怒りに任せてシェアする)を選びやすくなります。感情的なメッセージは、論理的な情報よりも素早く、広く拡散しやすいという特性も持っています。
シンプルさとストーリー性の誘惑
複雑な世の中の出来事を、単純明快な善悪の構図や、分かりやすいストーリーで説明する情報は、私たちの理解の負担を減らしてくれます。一方、真実は往々にして複雑で、多角的な視点が必要です。デマや誤情報は、この複雑さを省き、非常にシンプルで受け入れやすい形になっていることが少なくありません。
「これは〇〇のせいだ」「原因は△△にある」といった単純な説明は、複雑な問題に対する答えを求める私たちの心にとって、魅力的に映ってしまうのです。そして、ストーリー仕立てになっている情報は、単なる事実の羅列よりも記憶に残りやすく、他者に伝えやすいため、拡散の速度を速める要因にもなります。
デマ・誤情報はなぜ生まれ、どう広がるのか?
デマや誤情報は、私たちの心理的な隙間を突くだけでなく、情報が生まれて広がる社会的な構造も影響しています。
意図的な「嘘」と不注意な「間違い」
誤情報の中には、特定の目的(政治的な意図、金銭目的、愉快犯など)を持って、意図的に作られた「嘘」があります。しかし、全ての誤情報が悪意から生まれているわけではありません。不正確な情報を信じ込んでしまった人が、善意でそれをシェアしたり、情報を伝える過程で内容が歪んでしまったりすることもあります。
SNS時代の拡散メカニズム
SNSは、個人が瞬時に世界中の情報にアクセスし、発信できる強力なツールです。しかし、この特性がデマや誤情報の拡散を加速させる側面も持ち合わせています。
- シェアの連鎖: 一人のシェアが、その人の繋がりを通じて指数関数的に広がっていきます。
- アルゴリズムの影響: SNSの多くは、ユーザーの関心が高いと判断した情報を優先的に表示するアルゴリズムを採用しています。感情を煽る情報やクリックを誘う情報は目につきやすく、それがさらにアルゴリズムによって「人気のある情報」と見なされ、より多くの人に表示されるという循環が生まれることがあります。
- エコーチェンバー現象: 自分の考えと似た意見が集まりやすいコミュニティや、自分が見たい情報ばかりが表示される環境にいると、偏った情報に触れる機会が増え、特定の誤情報を信じ込みやすくなります。
誤情報と賢く向き合うための実践的なヒント
では、このような心理や構造を踏まえ、私たちはどのようにデマや誤情報と向き合えば良いのでしょうか。完璧に全てを見抜くのは難しいことですが、日々の情報との付き合い方でできることがあります。
1. 情報に触れたら、まず「一呼吸」置く
SNSやニュースで気になる情報を見つけても、すぐに「信じる」「シェアする」と判断せず、一度立ち止まる習慣をつけましょう。特に、感情が強く動かされた時、驚きや怒りを感じた時こそ、すぐに反応しないことが重要です。「これは本当かな?」「なぜそう思うんだろう?」と、自分自身に問いかけてみてください。
2. 情報源を「疑う」視点を持つ
その情報がどこから来たのか、誰が発信しているのかを確認する癖をつけましょう。信頼できる公的機関や大手メディア、専門家の情報でしょうか。あるいは、匿名のアカウントや、情報源が明記されていない個人的な投稿でしょうか。情報源が不明確な場合は、特に慎重になる必要があります。
3. 一つの情報だけでなく「複数の情報源」を確認する
気になる情報に出会ったら、同じ内容が他の信頼できる情報源でも報じられているかを確認してみましょう。複数の異なる情報源(ニュースサイト、公式サイト、専門機関の発表など)で同じ情報が確認できれば、その情報の信頼性は高まります。一つの情報源だけを鵜呑みにしないことが大切です。
4. 自分の「感情の動き」に気づく
どのような情報に触れた時に、自分が強く感情的に反応するのかを観察してみましょう。不安を煽る情報に弱いのか、怒りを感じやすいのか、共感しやすいのか。自分の感情のパターンを知ることは、感情に流されずに冷静に情報と向き合うための第一歩となります。感情が高ぶっていると感じたら、判断を保留し、一度情報から離れることも有効な手段です。
5. 「わからない」と保留する勇気を持つ
全ての情報について、完璧に真偽を判断することは現実的ではありません。時には「この情報はよくわからない」「今は判断できない」と保留することも重要です。不確かな情報を無理に白黒つけようとせず、「わからないままにしておく」という選択肢があることを覚えておいてください。安易に断定したり、不確かな情報を他者に広めたりしないように心がけましょう。
まとめ:完璧でなくていい、賢く情報と付き合うために
ポスト真実時代において、デマや誤情報に一切触れずにいることは非常に困難です。そして、完璧に全ての情報の真偽を見抜くこともまた難しいでしょう。しかし、なぜ私たちはデマを信じやすいのかという心理や、情報が広がる仕組みを知ることで、情報に触れる際の心構えや、冷静な判断を下すためのヒントを得ることができます。
大切なのは、全ての情報を鵜呑みにせず、自分なりに「立ち止まり、確認し、考える」習慣を身につけることです。情報過多な状況に対する不安は当然のことですが、こうした小さな実践を積み重ねることで、少しずつ自信を持って情報と向き合えるようになるはずです。
完璧な「真実」に常にたどり着けなくても、不確かな情報に惑わされず、自分にとって本当に必要な情報を選び取る力を養っていくこと。それが、ポスト真実の時代を生きる私たちの羅針盤となるのではないでしょうか。